自己破産と財産の処分(退職金・貸付金・その他)について
前回までに、預貯金、自動車、保険、不動産について解説いたしましたので、今回は退職金、貸付金を中心にそれ以外の財産について解説いたします。
まず、退職金があるかないか、退職金がある場合はいくらあるかを裁判所に申告するため、退職金額が分かる書面もしくは退職金が計算できる退職金規程のコピーなどが必要になります。ただ、なかなかご勤務先に破産するため退職金証明書が必要とは言いにくいところがございますので、例えば離婚調停のために必要とか、借り入れのために必要とか、老後のための投資を検討するために必要などと別の理由を付けてご取得されている方が多いかと思います。退職金は支給金額がそのまま財産として扱われるわけではなく、退職が近い場合は4分の1、退職まで期間がある場合は8分の1が財産として扱われます。例えば、退職まで期間がある場合で退職金額が160万円の場合は、その8分の1で20万円が財産ということになります。退職までどれぐらい期間があれば期間があることになるのかはケースバイケースとはなりますが、1~2年当たりが分水嶺のように思われ、少なくとも5年以上ある場合は8分の1となる可能性が高いです。
問題は、退職金の8分の1が財産となったとして、その金額が20万円を超える場合です。その場合は原則として管財事件となってしまい、退職金の8分の1の金額を管財人に支払う必要性が発生します。その金額を支払うために退職するというわけにもいきませんので、このお金を用意するのが難しいとなると、個人再生など別の手続を考える必要性も出てきます。
次に、誰かにお金を貸し付けている場合は、その貸付金額が財産となります。単純にお金を貸し付けているというだけでなく、誰かの借金を保証人として肩代わりした場合の求償金債権なども含まれます。ただ、貸しているお金が簡単に返ってくるなら苦労はしないわけでして、通常はなかなか回収が難しい場合が多いでしょう。そのため、回収が難しいということが裁判所にある程度認めてもらえれば価値なしとしてもらえる場合もあります。もっとも、回収ができそうな場合は管財事件となり、管財人が回収を行うことになる場合もあります。
それ以外の財産で問題になる場合があるのは、ご勤務先での積立金や、10万円以上の価値がある動産、株券・債券、敷金などです。ただ、住んでいる住居の敷金は精算時にある程度差し引かれることを前提に計算されますので、問題になる場合はあまりないように思います。株券は、法人などの代表者をされている場合にその価値が問題になる場合があります。動産は、生活に不可欠な衣服・寝具・家具・台所用品などは差し押さえ禁止財産とされていますので、これらが問題にある場合はありません。これに加えて、スマートフォンやパソコン、テレビ、洗濯機など一般家庭に通常あるものも概ね問題になるということはありません。但し、高額な物は換金対象となる場合があります。
これら以外で問題になるのは偏頗弁済です。偏頗弁済とは、破産しそうな状況になって以降に、一部の債権者にだけ行った義務のない高額の返済のことを言います。よくあるのは、借金の返済が厳しくなって、保険を解約したり自宅を売却したりで大きなお金が入った場合に、親族や知人に優先して借金を多めに返済するような場合です。偏頗弁済については、破産手続が開始された場合、管財人が弁済金されたお金を取り返すことができます。これを否認手続と呼びます。破産では全債権者が平等に扱われなければならないので、不平等な弁済については無効となってしまい、管財人によって取り返されることになります。どのような状況になったら破産しそうな状況といえるのかはケースバイケースですが、支払いを停止した、つまりほぼ借金の返済ができなくなった時から遡って1~3年前に行われた不平等返済はこれに当たる可能性があると考えた方が良いかもしれません。従って、親族や知人に迷惑をかけたくない、という場合は他の手続も検討することになります。
以上のように、破産をする場合、各財産について問題がないかどうか慎重に検討しなければ思わぬトラブルが発生する場合があります。ご心配な場合はまず専門家へのご相談をお勧めします。

